OFP STAFF, インタビュー

インタビュー #2 「DEZZERT MAGAZINE」(前編)

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大判の表紙にどーんと甘そうな迫力あるデザートの写真。ページ数も相当、重みもしっかりある立派な雑誌。表紙をめくると心臓がドキドキするほど迫力あるスノーボードの写真やグラフィックが次々と登場します。最後まで見終わってみても文章らしい文章はなく、なぜこれがフリーなのか、誰が何のために、どうやってこんなにクオリティの高いフリーマガジンを作っているのか、とても気になるのです。そんなナゾのフリーマガジンの編集人・酒井隆光さん(タイトル画像:右)と、マガジン全般のかっこいいスノーボードの写真を撮っているフォトグラファー・小野塚章さん(タイトル画像:左)のお二人にお会いすることができました!

『DEZZERT magazine』

スノーボードのスタイルやかっこよさ、楽しさを写真とクラフトアートで表現し、カルチャーやアートの価値を発信し続けるフリーマガジン。現在は年1回の発行で、14号まで発行中。来年は創刊10周年にあたる。
ライディングの臨場感溢れるスノーボードのグラビアと表紙のデザートの写真が特徴。


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●DEZZERT magazine誕生の話

野村:まずはDEZZERT magazine誕生の経緯を聞かせてください。

酒井:最初のきっかけはですね…。もう12~3年くらい前、当時僕はアクションスポーツやファッションに特化した広告代理店で働いていて、そこでスノーボードメーカーの雑誌の広告やカタログなどを作ったりしていました。ある仕事でスノーボードのスチールカメラマンを探していたときに、たまたま章くんを紹介してもらったのが最初の出会いです。そこで初めて章くんの撮ったスノーボードの写真を見たら、めちゃくちゃかっこいい写真だったんです。それを見たときに、まだほとんど世に知られていない、その写真たちを、もっと世の中の人に見てほしい、スノーボードが大好きな人たちに「純粋にかっこいいスノーボード」というのを見てほしいと思ったのが最初のきっかけです。
ただ、今みたいにSNSが発達する前だったし、仕事をしながらどういう方法でこれを世の中に出していけばいいのか自分でもなかなか分からなくて…。で、何か良い方法はないものかなと2~3年考えて、自分自身が雑誌などの紙媒体が好きだったというのもあり、フリーペーパーで出そうということになりました。

野村:そこで”フリー”という選択になったのはなぜですか?

酒井:そもそもは、広告代理店で働いていたし、自分のいる会社で販売ができる、スノーボードの価値が伝えられる雑誌を出したかったんです。その当時はスノーボードの媒体といえばファション性やハウツーなど商業性の高い雑誌が多く、スノーボードそのものを一枚の写真で本当にかっこよく見せているマガジンがなかったので、「うちの会社で作りませんか?」と社長を説得したんだけれど「そんな利益にならないことはしたくない」と…。でもどうしても作りたかったので会社を辞めて、その上で色んなしがらみのない純粋な媒体を作りたいということで、フリーペーパーしかないなということになりました。で、会社を辞めて、まずは自費出版で第一号を作りました。

野村:会社を辞めて…!第一号は自費出版だったんですね。

酒井:そうです。フリーペーパーって広告費がないと出版できないので。ただ、世の中にまだこういうマガジンがなかったので、イメージができないものをメーカーにセールスしても、メーカーとしてもなかなか広告費は出し辛いですよね。スノーボード業界自体がそんなに潤っている時代でもなかったし。なので、まずは自費出版で作って、それをメーカーやお店の人に見せて…というかんじでしたね。

野村:第一号はどれくらい作ったんですか?

酒井:300冊くらい作りました。これが原点になりました。スノーボードのダイナミックな写真とクラフトアート、若手のグラフィックアーティストやフォトグラファーを特集したページ…。これまでこういうものがなかったので、反応はよかったですね。完全に自分たちが好きなことを表現して、何のしがらみもなく作ったのがこの最初の1冊です。

野村:では小野塚さんの写真がメインでスノーボードのかっこよさを伝える、というのはもう最初からコンセプトとしてあって、今もブレていない軸なんですね。

酒井:そうですね。まったくそこはブレてないです。

野村:小野塚さんは第一号の立ち上げから一緒に?

小野塚:僕は当時26歳。。。二十歳からスノーボードの写真でお金を頂きはじめライダーを撮ってるんですけど、マニアックなライダーが多かったんです。通常のスポーツマガジンは売れっ子のライダーを使うのが普通なので、この写真かっこいいと思っても使われなかったりして…。お金にもならなければ雑誌にも出ない、社会的な評価もない、という時期が6年間。僕自身『これは。。。俺何やってんだ?』と悩んでた時に
『章くんの写真で本作ってみない?』と。自分ではいい写真だと思ってるけど評価が全くない時期で、ホントに自分はいい写真を撮ってるのか?とか、自分の立ち位置が分からなかったので、これを出してダメだったらもう辞めようと思ってた。でも出したくらいから徐々に評価が変わってきた。今思うと単純に技術がなかったのかもしれませんね。

野村:では二十歳くらいから毎年冬は雪山へ撮影に…というかんじなんですね。もともとご自身でもスノーボードをされていたんですか?

小野塚:僕は生まれが越後湯沢なんです。石内丸山スキー場から徒歩2秒くらいのところに親父が民宿を経営していて、生まれも育ちも雪国。実家が民宿なので、冬になると子どもは「お前らゲレンデ行ってこい」って追い出されちゃう(笑)ゲレンデは自分の中では近所の公園みたいな感覚です。

野村:編集部としては3人いらっしゃるんですよね。もうお1人はどういった役割の方なんですか?

酒井:もう1人はアートディレクターの吉田孝史ですね。彼がクラフトを作ったり、ぺージデザインとか、こういうアートを…。
吉田も僕と同じ時期に同じ会社にデザイナーとして勤めてて、章くんの写真でこういうものを作りたいっていう相談をしたときに、彼は彼で世に出ているスノーボードの媒体に対して何か疑問を感じていたので、まあ同じモチベーションだったということで、3人でやろうか、となったんですね。

野村:会社を立ち上げたんですか?

酒井:いや…やっぱりフリーペーパーで飯を食っていくというのはさすがに難しくて、基本的にみんなが個人でそれぞれに仕事をしながら、これはこれとして別軸でやっているというかんじです。今は年に一冊作っています。今の時代に広告費だけでこれを出版して、みんなにちゃんと給料払ってというのはなかなか…。現状は広告収入は全て印刷と発送費に充ててますね。
まあ、基本的にはプラスマイナスゼロのところでやってるかんじですかね…。

小野塚:いやいやいやそんなことないよ!毎年みんな3万、5万くらい赤あるよね…。

酒井:まあね、クラフトの画材買ったり写真展の準備費とかね。あとフルーツ買ったりね。

野村:フルーツ(笑)

酒井:そう、フルーツ買ったり、ケーキ買ったり(笑)

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●デザートの話

野村:タイトルと表紙の「デザート」というのはいちばん最初からコンセプトが決まっていたんですか?

酒井:なんかね、こう…正体が分からないかんじがいいなと思っていて。表まわりと中身の違和感みたいなのとか。あと、甘いものの写真てなんか癒されるじゃないですか。で、開いてみたらちょっとソリッドなかんじのかっこいビジュアルがあるっていう、このギャップもいいし…。あとは言葉の響きとか。まあ、完全に僕の感覚ですね。

野村:なるほど。じゃそこは酒井さんの思いで…。

酒井:そうですね。勝手に決めました。

野村:そのあたりは小野塚さんと吉田さんはどうでしたか?

小野塚:うん、ぜんぜん。何かおもしろそうって。楽しんでました。
この去年の表紙(14号)の写真は、ネットでスポンジケーキ買って…。これ14冊目だから14段。

野村:え!お手製なんですか!?

小野塚:そう、近所のスーパーで生クリーム買ってきて、1人で家でこう泡立てて…積んで…。バタバタしながら撮る、みたいな…。

野村:えええ。撮影スタジオみたいなすごいところで撮ってるんだと思ってました。そしたら表紙は毎号そんな感じで手づくりなんですか?

小野塚:あ、オーダーで作ってもらったのもあるんですけど、だいたいそうですね。これ(11号)なんかは吉田と2人で渋谷に行ってアイス買って、そのまま駐車場で。前もって用意しておいた帯をカップに巻いて「早く撮れ!早く撮れ!」とかやってて…。これはだから…後部座席です(笑)

酒井:あとこの4号目のは中野ブロードウェイの地下にあるアイスクリーム屋さんですね。階段の踊り場で撮ったっていう。

野村:思ったより…すごいアナログ感ありますね。

酒井:そうなんです。アートもそうなんですけど、基本的にデジタル合成よりもクラフト感を大事にしていきたいというのがありますね。

小野塚:全部パソコン上でやっちゃったら、作ってるかんじがしないというか。そもそも足で雪山に登って写真撮ってという、超アナログな事をしてるんで…。

酒井:そうそうそう。

●制作の流れ

野村:制作の流れについて聞かせてください。毎号動き始める前に編集会議みたいなことはしているんですか?

酒井:まあ一回くらいは…しますね。でもそんなに中身のある話じゃなくて、近況を話したりとか仕事の話をしたりとか。マガジンの話はたぶん5分くらい…。

小野塚:全体の流れで言うと、まずシーズン中に僕がどんどん撮ります。で撮り貯めたもの多少セレクトして酒井さんに投げるんです。すごい量です。

野村:まずは写真なんですね。

小野塚:そう。で、酒井さんが大枠の台割をなんとなく組んで、それをまたこちらに戻してもらう。それを見ながら僕が今度は写真の微調整をして…ていうのを何回か繰り返して、徐々に尖ってきてある程度形になったものを吉田に。そこから吉田がインスピレーションを感じたものでアートを作っていく。「これとこれとこれ、アート入れるから」という話をしながら、今度はアートを入れるの以外でまた微調整したり。最終的にアートを入れたものをはめてみて、完成。

酒井:おもしろいのが、やっぱり一枚の写真でも、それぞれの視点があって、これがかっこいいとかこれはちょっと違うんじゃないかという意見が3人とも違ってる。1秒間に数コマ撮れる、その0.何秒の差でこっちの写真がいい、いやこっちがいい、みたいな微妙なこだわりをみんなすごい持っていて、そこの議論は面白いですね。

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●撮影の話

野村:被写体になるライダーはどういう繋がりで声をかけるんですか?

小野塚:だいたいは僕がスノーボードの写真を撮り始めてからの16年くらいの間に知り合った仲間ですね。もちろん毎年若い子もどんどん増えているんですけど、友人の知り合いだったり、メーカーの仕事で撮影したライダーだったり、コンテストで目についたライダーとかも。僕のスケジュールで好き勝手に僕が撮りたいヤツを撮ってます。だいたいみんな仲間との繋がりで声をかけてるんですけど、毎年どんどん声をかけて撮影して発行していることで、ライダー側からもいい写真を撮ってもらえると思ってもらえて「今度撮影あるんですけど来てもらえますか?」とか、こっちの撮影でも向こうの撮影でも、お互いに声をかけ合える。シーズン中は仕事での撮影の合間を縫って色んなヤツに連絡してスケジュールを組んで撮影してますね。デザートマガジンでは自分のプライベートな時間で撮ってるのがだいたい7割くらいで、あとの3割が何かしら仕事を絡めたやつを、そのメーカーさんや主催者側の許可を得て使わせてもらってます。

酒井:やっぱり誰でも撮れるわけじゃなくて、ライダーとカメラマンとの信頼関係がないといい写真て全然撮れないんですよね。ライダーがどのタイミングでいちばんかっこよくターンするかとか、どこのライン狙ってくるかとか、ある程度コミュニケーションをとってお互いの信頼関係がないと、いい写真はぜったい撮れない。

小野塚:いいこと言うね。

酒井:ほんと、それはね。このカット(※13号 本チャプター上部。雪山でのライディングカット)とか、どこを当て込んでどのスピードで入ってくるかとかは、彼のスノーボーディングを知ってないと撮れないんですよ。

小野塚:僕の山の写真はこの星野俊輔というライダーが多いんです。彼とは結構付き合いが長くて、だいたいマンツーマンで撮影してますね。これは最初僕が撮ってる位置で2人で話してるんです。「こうきて、この月の溝の30mくらい下のこの膨らんでるとこあるでしょ。ここでターンしてもらいたいんだよね。」とか。たぶんこれを撮る10分くらい前ですね。で「わかった。このへんね。」って、ここでちゃんとターンしてくれてる。

酒井:ライダー的には、山を見る技術だったり自分がどのスピード感でどういうターンをすればかっこいいラインが入るのかということをちゃんと自分の頭に描けてないとできないんですよね。
別の視点で言うと、こういう山に行くと雪崩や遭難の危険性というものが常にあるから、そういう命の信頼関係ももちろん築けてないといけない、というのもあります。なのでまあ、山の技術も、山の知識や経験もちゃんとないと、こういう写真は撮れないんです。

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小野塚:僕はそこまで山岳カメラマンじゃないんです。山の撮影も好きなんですけどゲレンデの撮影や
特殊なロケーションの撮影も大好きで、ライダーも色んなタイプがいるんで。それぞれが活きるところを撮りたいんです。ちなみにこれは女性ライダーで(※11号 本文章上部)、この階段オレらが作ったんです。

野村:えええ!

小野塚:ホームセンターで材木買ってきて、潰れたゲレンデの麓で作ってみんなで持ち上げて、穴掘って設置して…。で、夜に撮影。

野村:すごい手づくりですね…!こういうことやろうよ、っていう企画はまずはどこから出てくるんですか?

小野塚:それはもう、滑り手発信、撮り手発信…てんでばらばらです。ライダーがローカルだと現地のセッティングができたりもしますし。あとは、廃墟とか、ちょっと書けないかんじのやつも…。

野村:ああ〜確かに…。

小野塚:たとえばコンディションが悪くてゲレンデだとあまりいい撮影ができない、っていうときもあるんですけど、天気悪いから何もしないというわけにはいかないんですよ。時間も限られてるので。だから滑り手とみんなでロケハンしながら、「あ、あそこどう?」とか「あれ廃墟じゃない?」「ちょっと行ってみようぜ」となったりして。でそのままもう「あの上からドン!ドン!ドン!って降りて来れない?」「わかった。やってみるわ。」みたいなかんじでバーッと撮って「次行こうぜ」とか。

野村:なるほど〜。そういうのはもうゲリラ的に行って撮ってくるかんじなんですね。

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小野塚:そうなんです。いきなり行ってすぐ終える。あ、これ(※10号 歩道橋でのカット)なんかはもう完全にヤバいやつですね…。これは国道沿いの歩道橋で…。警察来たら一発で持ってかれるやつです…。

野村:もはや時間との戦いですね…。こういうのはもう一回でキメるみたいなかんじですか?

小野塚:いやいやいや。これがまた大変なんです。ドキドキしながら…。日中はまだいいんですけど、夜はストロボとか投光器とかを焚かないといけないんで、けっこう目立つんですよね…。

野村:まあ、目立ちますよね…。

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小野塚:これ(※10号より。トンネルでのライディングカット)は夜中なんですけど、車道に雪をめっちゃ敷いて…。

野村:ここは車は通らない道なんですか?

小野塚:いや、通ります。僕は道のド真ん中にいて、ライダーの彼に無線で「今車来たからちょっと待って!」とか。

野村:普通に車通るんですね…。
ゲリラ撮影してて、怒られたこととかあるんですか?

小野塚:ぜんぜんあるんですよ…。ほんとに…。30代で子どもいるのに…。

酒井:警察と一緒にいる写真がインスタとかによく上がってます(笑)

小野塚:近所の人が通報しちゃったりとか…。けっこうな勢いで怒られます。でもすぐ帰るって言っておとなしく帰るので注意止まりです。故意に何かを壊したりしてるわけではないので。で、一回近くのファミレスで作戦会議して、「よし、じゃ2時間後にもう一回行くか」とか。あるいは夜中とか翌日とか。どうしてもやりたいんで。

野村:諦めないんですね。

酒井:アメリカのスケーターたちもそうですけど、横乗りのカルチャーのちょっと反社会的な部分というか。そこがまあ…かっこよかったりするんですけど。

小野塚:でも基本的にある程度の線引きがあって、”怒られる範囲内の場所”にしてます。この線超えるとアウト、というところのギリギリまででやってる。まあ、ギリギリなので、ケガも多いですよ。

野村:そうですよね…。

小野塚:階段でコケて頭ぶつけちゃって、10分くらい休憩してから「オレなんでここにいるの」って言い出したり。説明してもまた2,3分で「オレなんでここにいるの」って…。記憶飛ばしちゃって。

野村:それはこわい…。でも、それでもやらずにはいられないんですね。

小野塚:そうみたいですね。ライダー達は本当にスゴイです。

野村:何というか…。作る側の姿勢がとてもフリーペーパー的で嬉しいです。

酒井:スノーボードをライフスタイルとして好きな人が見てももちろん、全然スノーボードに興味がない人が見ても、あ、スノーボードってかっこいいんだな、ってちょっとでも感じてもらえたらいいなと思って。

野村:それはもう、すごい感じます!

立ち上げエピソードから撮影裏話まで、ワクワクしっぱなしの前半でした。それにしてもお二人、本当にスノーボードへの思いが溢れております。さらっとかっこ良く、なんかではなく、もうアツ苦しいくらいのスノーボードへの思いで作り続けていることが伝わってきます。そしてマガジンを無料で発行し続けることへの思いやこれからのことなどのお話が飛び出す後半へと続きます!

text・interview 野村(ONLY FREE PAPER)
photo 野村(ONLY FREE PAPER)


2016-09-25 | Posted in OFP STAFF, インタビューNo Comments » 
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