OFP STAFF, インタビュー

インタビュー #10 「UNDIES ZINE」



ある日突然現れた、男性の下半身とパンツだらけのフリーペーパー。よくよく見ないと部位や体勢が分からないほどの至近距離から切り取った、男性の局部や臀部(パンツ付き)が次々と目に飛び込んできます。
誌面から漂うのは、柔らかな光を受け、思わず見とれてしまうほどの美しさと、性ではなく美を追い求めるが故のエロティックさ。男性の下着という存在に対してほとんど1mmも興味を持ったことのなかった女性でさえも、思いがけずこれらの写真から、全パンツの意味を考え、自分の“性”を見直してしまうような媒体です。
発行者である「UNDIES」というパンツユニットの男性二人組にお話を伺うべく、都内某所で待ち合わせ。インタビュー当日、私の目の前に座ったのは、「くつべら」という名の犬を被った人と、犬を気遣う髭が生えた中性的な人。そしてテーブルには、男性の局部がアップになった『UNDIES ZINE』と、撮影に使った実物のパンツ群が…。

『UNDIES ZINE』

メンズパンツをモチーフに、写真、イラスト、文章で表現する「メンズパンツ好きのためのマガジン」。パンツユニット「UNDIES」の二人が、モデル、撮影、執筆、デザイン、ほぼ全てを分担し制作している。撮影に使うパンツは全てモデル所有のもの。くつべら氏は約100着ものパンツを所有している。2016年創刊。

—パンツユニット「UNDIES」—
くつべら @9tubera
いぐちまなぶ @manabu_IGUCHI

●犬…???

野村:あれもこれも聞きたい…というフリーペーパーのことを伺いに来たのですが、お会いしたとたん、ますます気になることが増えてしまいました。まずは、なんで犬になっているのでしょうか?



くつべら:犬は3年前くらいからですね。僕より前に、すでに犬を被っている人たちがいまして、Twitterで見つけて僕も被るようになりました。これを被ってフェティッシュパーティー(※1)に行ったり、自分たちでイベントを企画したりしています。

野村:どういう人たちが集まって、主にどういうことをするパーティーなんですか?

くつべら:衣装の新作を発表しに来るみたいな人もいるし、ショーを楽しんだり、あとは交流ですね。基本的に社交場なので。写真を撮ってツイートし合う、みたいな。

野村:ファッションをほめ合うんですね。みんな男性ですか?

くつべら:いえいえ、女性もいますよ。男女問わず、30歳前後の人が多いかな。衣装にもお金がかかるので、20代後半くらいから実行力が出てくるというか…。30代後半から40代くらいになると、もうみなさんクオリティがすごいです。どんどん本格的な装備を揃えてきます。

野村:変身願望の具現化ということ?

くつべら:それはありますね。普段と全く違う自分になりたいという。だから、そういうところで顔見知りでも、みんな活動しているニックネームで呼び合っているので、本名は知らないんですよね。そういう風になりたい、そういう風に認識されたいっていう名前で呼んであげることが最大のリスペクトなので。僕のことはぜひ「くつべら」と呼んでください。



●パンツユニットUNDIESと『UNDIES ZINE』の誕生

野村:最初にUNDIES ZINEの表紙を見たときに、メンズ下着のブランドやメーカーの媒体かと思ったのですが、お二人ともやはりこういったファッションやアパレル関係のお仕事をされているのですか?

くつべら:全然違うんです。

いぐちまなぶ:オシャレとは無縁だからね。

くつべら:犬だしね。

野村:そうですか。確かに内容を見てみると、パンツというより下半身、それも局部や臀部をとても丁寧に愛を持って美しく扱っているという印象でした。そこにパンツが付属しているような。パンツに対する愛や身体に対する愛、美に対する愛…。とにかく「愛」というのを誌面からとても感じたのですが、お二人は恋人同士なんですか?



いぐちまなぶ:よく聞かれるよねーそれ。でも違うんです。そもそも犬だし。

くつべら:お互いにタイプと違うんですよね。

いぐちまなぶ:どんな関係だろうね。よく遊ぶよね。

くつべら:遊びの関係ですね。

野村:どういうきっかけでパンツのZINEを作ることになったのですか?

いぐちまなぶ:くつべらくんがパンツが大好きで、Twitterで自撮りしたパンツの画像を上げているのを見ていて、なんか変な子だなって思ってたんです。

くつべら:パンツの自撮りを上げるのは、くつべらアカウントを始めた5年前ぐらいから日課になっていたんですよね。

野村:パンツが好きで自撮りを…。

くつべら:それまでは田舎の実家暮らしだったので、ちょっときわどいパンツを買うのは郵便局に局留めにして取りに行ったり、こっそり楽しんでたんです。それが一人暮らしだと、何も憚ることなく好きに楽しめるということに気付いて。当時住んでいた家が朝の日差しがたくさん入る家で、朝撮ったらすごく絵になるんじゃないかと思って、自分で撮って投稿を始めたんですよね。

野村:なぜパンツだったんでしょう。何かきっかけがあってパンツに興味が向いたんですか?

くつべら:確か、ドン・キホーテの下着コーナーでセクシーなものを見かけたのが、最初のきっかけだったと思います。単純にすごく興味が湧いて。知り合いが見てるんじゃないか…とソワソワしながら購入したスリルと、実際に履いてみたときの気持ち良さ…。それが今に続いている気がします。あと、パンツだったら家族に隠れて洗ったり干したりできることとか、東京で一人暮らしするときにコンパクトにして持っていけるところもメリットでしたね。管理と手入れのしやすさですかね。




いぐちまなぶ:俺は当時、友だちや知り合いにモデルになってもらって写真を撮ったりしてたんですけど、くつべらくんの自撮りの写真をTwitterで何度も目にしていて、一眼レフで撮ってみたくなったんですよね。それでまず試しに撮ってみたら、パンツの形や生地によって、見せたい角度とか切り取りたいところが違うんだなという発見があって、いろいろ提案を出しながら撮っていきました。

野村:その時に撮ったものをベースに、UNDIES ZINEが出来上がったのですか?

いぐちまなぶ:フリーペーパーっていう話になったのは、その最初の撮影から1年後ぐらいかな。

くつべら:そうだね。なんか形にできるんじゃないかなって。僕はもともと、地元にいた頃はフライヤーとか紙ものを作っていたんです。東京に来てからは仕事でしかやっていなかったので悶々としていたというか。アウトプットしたかったんですよね。あと、まなぶさんの熱量。撮ってもらったら、「ここの生地のシワが…」とか「ここの盛り上がりが…」とかすごい熱弁してくれて。お互いに機が熟したというか、そういうタイミングだったんですね。



野村:創刊号から一貫して、とにかく写真が美しいですよね。表紙も毎号、興味をそそられるアングルと切り取り方で。

くつべら:表紙については、まなぶさんと相談して毎回自撮りでやらせてもらってるんです。

いぐちまなぶ:そこは俺も、くつべらくんの自撮りがいいと思っていて。彼がUNDIESのアイコンなんですよね。毎回テーマやアプローチを変えても、ベースのスタンダードなものはキープしていきたいんです。

くつべら:うん。

●人を繋いでいく、UNDIES流アプローチ

野村:第2号から、表紙で「メンズパンツ好きのための」と謳っていますが、メンズパンツ好きというのは、コミュニティがあったり、そういうシーンがあるんですか?

くつべら:あるのかな?

いぐちまなぶ:聞いたことない(笑)

くつべら:何となく興味本位で形にして「やりたいことをやった」っていう1号ができたときに、新宿二丁目にあるオカマルト(※2)に見せに行ったんです。フェティッシュイベントなどで面識のあった店主のマーガレットさんというドラァグ・クイーンの方が、「これまで見たことないし、面白そう」と言ってくれて、そのときにアドバイスもしてくれたんですよね。「手に取ってほしかったら、手に取ってもらうための工夫を考えなさい」と。

いぐちまなぶ:それで2号目からは表紙に一言入れたりして、パッと見て趣旨がわかるようにしました。

くつべら:そこで初めて、どういう人に手に取ってほしいんだろう、っていうのを考えましたね。男性だけでなく女性にも、性別問わず手にとってほしいですね。

いぐちまなぶ:俺は今は、女性に手に取ってほしいという意識が強いかも。一部の人だけでキャッキャするのも楽しいんですけど、もっと広い視点で見てもらいたいというか。



野村:メンズパンツがモチーフではありますが、メインテーマはやはり「性」という部分なのでしょうか。パンツと身体がとても美しく見える写真で、決して卑猥ではない、セクシャルなものをすごく感じます。品のあるいやらしさというか。

くつべら:その表現はすごい嬉しいです。

いぐちまなぶ:メンズの下着って、いやらしいものではないんですよね。ただの表面的なものでしかない。下品にならないようにしようっていうのは、創刊のときから今でも大事にしていることなんです。

くつべら:その感覚は二人ともとても近いよね。

いぐちまなぶ:性というものをあえて使っている、というところはあるかもね。ただ、それだけを見てほしいわけではないんです。



くつべら:見たこともないものを作りたい、っていう気持ちが大きいですね。印刷するならちゃんとしたクオリティのものにしたかったし、こだわって作りたかったんですよね。

野村:そのこだわりはZINEの配布場所にも現れていますか?

くつべら:そうですね。我々の行きつけのお店が多いんですけど、“Invitation”という配布MAPを作っています。純粋にこのMAPを拡げていくこともそうですし、これで人と場所や人と人を繋げていくということが、すごく面白いなと思っています。




いぐちまなぶ:「デパートメントH(※3)」という鴬谷で開催されているフェティッシュのイベントで告知コーナーがあって、その時にはこの“Invitation”だけを配っているんです。

くつべら:それは二人のこだわりです。絶対にZINEは配らない。

いぐちまなぶ:ZINEを置かせていただいてる場所が、自分たちが本当に好きなところなので、ぜひ足を運んでもらいたいんですよね。微力ながらZINEを使って、そういう面白い場所の紹介とか案内にも貢献できたらなと。

くつべら:それが、ZINEを置かせてもらうことに対してのお礼だと思っています。“Invitation”は、UNDIESのこの取り組みに対する「招待」っていうことなんです。

野村:それはすごく面白いアプローチですね。フリーペーパーまでのアクセスや、そこに起こる一連のムーブメントを含め自分たちの価値観を提示している。

くつべら:そう思います。だから僕たちが好きな、ZINEを置かせていただいているところっていうのは、こういうことを面白がってくれる人たちがいるようなところばかりなんですよね。

いぐちまなぶ:このMAPがもっと広がって、“Invitation”だけ持ってちょっとこっちも行ってみようよ、なんてなってくれたら嬉しいなと。

くつべら:最高だよね。

いぐちまなぶ:だから、ZINEの手渡しはしないんです。



●パンツから見えてくる、“人”

野村:くつべらさんの自撮りありきで始まったUNDIES ZINEですが、3号からは別のモデルも出てきますね。

くつべら:2号目までは自分たちも手探りで作ってきたのが、3号目からはやりたいことがはっきりしてきたんですよね。

いぐちまなぶ:あと、モデルも体型の違う人が出たりしたら、もっと幅広い楽しみ方ができるよねっていう話をある方からされて。それで3号4号とやってみて、誰がモデルになるかで、見え方がすごく変わるんだなと感じました。特に4号で自分がモデルをやってみて、パンツの選び方や見せ方で「自分らしい」ってこういうことだなと、すごく考えたんです。だからやっぱり、人それぞれのパンツ観っていうのがあるんだろうなと。

野村:人それぞれのパンツ観…!パンツは基本的にプライベートなものなので、そのパンツ観は本来は自分だけの楽しみなのかなと思うのですが、こうしてZINEにすることで、そのパンツ観を他人と共有することもできるんですね。



いぐちまなぶ:パンツってプライベートなものですけど、“完璧なプライベート”ではないと思うんですよ。完璧な、という意味でいくと、もう全裸なんですよね。パンツはその完全プライベートな部分を隠すためのものなので、パンツという存在自体はプライベートではあるけれどもパブリック寄りだと自分は思うんです。
あと、どんなパンツを履くかによって、気分が変わりますよね。たとえば「勝負パンツ」っていうのは、自分の気持ちを奮い立たせるために履くもので、履くパンツによって精神的にも少なからず左右されてるんですよね。だから、本当に好きなパンツを履いている自分っていうのは、やっぱり相当気持ちがいいんじゃないかな。



野村:お二人は、UNDIESというパンツユニットでショートムービーも作っていますね。ZINEも動画も一定のクオリティを保ちながらやるとなるとお金がかかると思うのですが、資金面はどうなっているんですか?

いぐちまなぶ:お腹を切っています。

くつべら:完全に。

野村:そこはそういう方針なんですね。

くつべら:誰かのお金でやっていると、その人のためになっちゃうから。自分たちがやりたくて、楽しんでやるのが第一なんです。無理のない範囲で楽しんでます。

いぐちまなぶ:こだわりは強いんですけど、遊びなんだよね。

くつべら:そう。遊びの関係なんです。

いぐちまなぶ:それは崩したくないよね。

野村:今後、紙と動画以外にやりたいことはありますか?

くつべら:いつかやりたいなっていうのが、展示です。二人展。

いぐちまなぶ:毎回、使えない写真がいっぱいあるんですよ。すごく良くてもテイストに合わなくて泣く泣く削ったりとか。文章や絵でもそういうのがあって、何もしないのももったいないなーと。

くつべら:展示以外にもアイデアはとにかくどんどん出てくるんです。ZINEのこのかたちはもちろん続けていきたいんですけど、もっとまるっとこの世界に入り込めるような場所を作って、関わってくれた人に感謝を伝えたいっていうのもありますね。いつもはこのZINEでやるんだけど、たまにテンション張って盛り上がるお祭りみたいなのをやりたいなと思ってます。

いぐちまなぶ:パフォーマンスとかもね。お祭り的なものはその時限りにはなりますけど、紙で見るのとはまた違った面白みのあるものができたらいいね。



●UNDIESの御用達

野村:最後に、おすすめのパンツショップやブランドを教えてください。

くつべら:MAPに載っているパラドッグ(※4)さんとか、今はもう店舗がないんですけど鎌倉のYipunMan(※5)さん。僕はこのYipunManのパンツががすごい好きなんです。肌触りが本当に気持ちいいし、生地の染色も落ち着いた色合いでいいんですよね。 あと、ユニクロも好きです。1号に載ってる中にユニクロのもありますね。

いぐちまなぶ:俺は、4号で履いてるやつなんですけど、ウンナナクール(※6)が、グラフィカルなのが多くて、柄がいいなと。基本的に女性の下着ブランドで、メンズもちょこっと作っているんです。作りが一般の男性下着と若干違うんですよね。ちなみに今日履いてるやつはね…。ジーンズのLeeが出してるパンツで、ジーンズみたいなんですよ。(立って前を開けて見せてくれました…)

(※1)フェティッシュパーティー:様々な性的嗜好を持つ人たちが、ラバースーツ、コスプレ、女装、SMなどのフェティッシュ・ファッションに身を包み集う。フェチにまつわるショーに興じたり、参加者同士が交流することを目的としたイベント。
(※2)オカマルト:新宿二丁目にある、LGBT関連の雑誌・書籍などを集めたブックカフェ。希少な資料も多数。
(※3)デパートメントH:東京キネマ倶楽部で毎月第一土曜日に開催されるフェティッシュパーティー。通称「デパH」。<参考>デパHとは? https://twitter.com/9tubera/status/905623159423905792
(※4)パラドッグ:原宿の男性下着専門店。ノーマルなものからかなりきわどいものまで、品揃え豊富。
(※5)YipunMan:鎌倉発のオリジナルアンダーウェアブランド。生地の染色から縫製まで、すべてこだわりの国内生産。
(※6)ウンナナクール:シンプルな形とカラフルな色使いが特徴の女性用下着ブランド。メンズアイテムもあり。

メンズパンツにこだわり自分たちの表現にこだわり続けるパンツユニットUNDIESは、終始息の合った会話で、お互いへのリスペクトを隠さない、とてもピースフルな人たちでした。
私はと言えば、人生でいちばん長い時間パンツについて考えたんじゃないか…そんな夜になりました。この先の人生では、もう少しパンツの存在を意識して、自分のためにお気に入りのパンツを探そうと思います。
後日、くつべら氏にメンズパンツのカテゴライズと選び方を教えていただきました。私のようにパンツを探しに行きたくなった方がいましたら、ぜひ参考にしてみてください!

また、現在『UNDIES ZINE vol.6』で紹介するお便りを募集中だそうです。メンズパンツにまつわる相談や質問にUNDIESのお二人が答えてくれますよ。

<UNDIESへのお便りはこちらから> https://docs.google.com/forms/d/1OO1wIHGeqeeSTT2T0xIZB3Dk3iclcBf0QgnVPg3ULp4/edit

<パンツ100着を所有する、くつべら氏のパンツの基準>
▼日常的
・ブリーフ
・トランクス
・ボクサーパンツ

▼非日常的
・ビキニ(Tバック/Yバック)
・スパッツ
・ジョックストラップ(Oバック/ケツ割れ)
・褌(六尺/黒猫)
・Iバック
・ノーパン
・その他

(くつべら)朝起きて、刺激が欲しいなーと思った時は、非日常的なものを選ぶことが多いです。ただ、非日常的なものばかり選んでいるとそれが日常になってしまうので、意識的に日常的なものを履く頻度を上げています。非日常ばかり選んでいると、日常的なものが非日常的に感じられて、その逆転現象もまた面白かったりしますよ。


text・interview 野村(ONLY FREE PAPER)
photo 松江・野村(ONLY FREE PAPER)
ロケ地:代々木カレー


2017-10-25 | Posted in OFP STAFF, インタビューNo Comments » 
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